ヨモヤマバナシ

【 CueMakerは怠け者?? 】

掲載日 2008-11-15

どこかにも書いたけど、自分はカスタムキューが好きでキューを集めました。
好きが高じたために訪問したキューメーカーのショップがもう30以上。
中でもGinaやBarryのショップは10回以上?それ以上に行っているかも…と思います。
South WestやTadもそうですね。
でも訪れてもせいぜい3日程で次の場所へ移ってしまいます。
20年以上前にSchickのショップに1週間も10日も滞在しましたが、今では夢のような話にしか思えません。良い思い出です。
年の1/3程を海外で過ごした時期もありました。それも全部キュー関係でですから、余程暇だったんですよね。ハハハ…


そんな私が、カスタムキューのことで最近驚いたことがあります。
11月も半ばになったので、例年のごとくあちこちへ電話をしました。
今年はキューメーカーたちにビリヤードエンサイクロペディアを贈ったので、電話をしやすかったのもありますが、『景気はどう?』『家族は元気?』『最新作はどんなの?』…などの他愛のない会話から、いきなり『今年は何本になりそう?』と聞くのです。
皆一様に口ごもり、やがて口を開きます。
私には彼らが見栄を張る理由もメリットもないのは、皆承知しています。


○ 7本 だけど5本は去年からの残りで、現実には2本 B・S
○ 7本 1本1本が高額なものばかりで、スクリームショウも入るし  B・S
○ 12本 本来なら倍は作りたいけど… 時間が掛かるね。  J・S
○ 11本 1本1本違うデザインだから手間が掛かる。でも最近はペースが良くなったね B・B
○ 10本 夏には時間を取られて、結局予定を変更したんだね B・M
○ 9本 今年は全くダメだった。思い通りに仕上がらなかったね D・B

私がメインで扱っているメーカーはこんなのばっかり…


これでよく暮らしていけるなぁ 正直そう思いませんか?
皆10年15年、キュー作りを業として、カスタムキューでは一目も二目も置かれている面々なのにこうなのです。
彼らは皆怠け者なのでしょうか?1人だけならそうとも言い切れますが皆揃って…というと考えちゃいます。実はこの面々もキューはもっと作りたい、でも作れない。
ではどうして作れないのでしょう。


わざと本数を少なくして、価格を吊り上げていると言う人もいますが、キューメーカーはキュー作りが好きなんです。
この人達はそんなに頭も切れません(笑)
実は工程が大変細かいのです。


1つここで例を挙げてみましょうか。
プールキューは、基本的にはフォアアームとハンドルとスリーブに分かれています。その接合には接着剤とピンが用いられています。


接合してから、グリップに糸や革を巻いた時に同じ高さになるように、ハンドル部分を最終サイズに削りだします。多分、径で2mm位かと思われますが、どのくらいの時間を掛けて削ると思いますか?
芯材が入っているか・いないかでも違いますが、芯材が入っていない場合は大体急いでも2ヶ月は掛かるのです。
それは作り方が間違っている、時間が掛かりすぎだとErnie(Ginacue)は言うでしょう。


芯材を入れればいいのにとJim(Samsara)も言うでしょう。
集成材を使えば楽なのにとMike (Lambros)。
でも先にあげたキューメーカーのうち、B・BとB・M以外は、頑なとしてやり方を変えません。(B・Bは最終サイズまで最初に削って寝かせておくし、B・Mは芯材を入れている。)
急げばハンドル部分が曲がりやすくなってしまうのです。
いくらフォアアームやスリーブの素材を吟味しても、1つ1つのインレイを手で丁寧に磨いても、ハンドルの部分を手抜きすればキューは曲がってしまいます。


カスタムキューの反りや曲がりの50%はハンドル部分の曲がりです。
少しずつ削っては、ちょっと放っておいて様子を見る。キューは微妙に動いているのをカスタムキューメーカーは知っています。だから少しずつ、少しずつ削るのです。
カスタムキューに用いられる素材は、大体乾燥に10年以上費やされています。


伐採してから使うまでに何十年というのも別に珍しくないのです。それでも天然の木材は毎日動きます。呼吸をしているのです。
これらの製作本数の少ないメーカーたちに対して、同じカスタムキューでも何倍も生産しているメーカーもいます。彼らはどうしているのでしょう。
1つ1つのメーカーで、このあたりに対処する方法が違うのが、カスタムのカスタムたる所以、面白いところです。
まず大御所のメーカー、GinaやTAD。ショップの中に山ほど乾燥して最終サイズに近いハンドル部分を持っています。別に隠しているわけではないのですが、あちこちの作業台の下などに10年分以上あるのでは?と思うほどあります。


彼らはフォアアームのベース材もスリーブ部も呆れるほど寝かせています。
言い換えれば乾燥させているわけです。
だからGinaのバットのメープルは深い茶色でしょ。今の素材をどんなに削って、寝かせてもGinaのアメ色のメープルにはなりません。あれは古い木材を10年15年前に削って寝かせていたものなのです。ワンマンショップでも早くから機械化に大変な金額を投資したおかげで、現在でも50本前後の生産本数を維持できています。
Ginaではあともう1つ、革や糸に隠れて見えませんが、曲がらないように工夫がしてあります。
芯材をハンドル部分にも用いています。
この点に関してはSamsaraも同じ考えですが、キュー全体に芯材を用いて、反りや曲がりを防いでいます。
GinaやTadはベースの外観はハギなしのキューなのです。
外観は派手に見えますが、全て埋め込み(インレイ)です。


ハギなしは、本来1本の木のままだと大変曲がりやすい構造です。それで外観とは関係なく芯材にメープルを用いて、反り・曲がりを防いでいるのです。
この点を引き継いでいるカスタムキュー^は大変多く、Samsara・Chudy・McWorter・Lambros…Manzinoもそうです。バタフライキューで最近名をあげてきたFanneliというメーカーも同じです。
逆にSzambotiやShowman・Barenbrugge・Scruggs・Schick・Searingなどは、ほとんど芯材を用いません。


今こうして手間の掛かるキュー作りをしているメーカーは、キュー業界では化石のような人ばかりです。あっ、Juddもそうですね。
芯材を用いた場合、どんなごほうびがありますか?
○ 打感が硬くなり、今の消費者の好みにマッチしている(キューの99%がこっち側なので選択の余地がないのですが)
○ より多様化した平底のハギ(インレイポイント)・浮きハギを使用出来るようになった(それにより見た目が華やかになり価格を上げやすい)
○ 反りや曲がりに対してそれほど神経を使わずにすみ、時間短縮・工程短縮につながった。
○ 芯材(ほとんどの場合メープル・それも集成材)を用いたために打感の安定化につながっている。スネークウッドだから硬すぎるとかバールは軟らかすぎるなどということが大変軽減されている。


あっ、そうそう、以前は木目が綺麗でもキューのベースには不適と見られた素材も使えるようになりました。
キューの歴史はメープルとの付き合いの中で語られることが多く、シャフトのテーパーやグリップの太さなどは、メープルをベースに考えて、より良いものを…と発展してきたのです。
ほら、キューテックが出てきたときに、異常に細かったでしょ。あれは素材が硬いものだから、しなりを考慮してああなったんです。


20年以上前にSchickの所に滞在した時、『Maple drives me crazy!!』と彼はいつも言っていました。寝かせたメープルの約半分が反ったりして最終工程前に廃材となることを、彼はその当時、よく体験していたのです。
その当時のショップ、それは見事でしたね。ショップのあちこちの部屋に製作中のシャフトが天井からぶら下がっていて…


今ではBillはキューメーカーの皆からMaster(名人)と称されていますが、実は大変な苦労人、それも“メープルに関しての”と言う言葉がつくのです。
20年前毎日朝8時から夜の6.7時までショップに缶詰で、観光にもどこにも行けなかったけど、今では心から感謝しています。ありがとう、Bill。

Barryはバックオーダーを200本以上抱えています。オーダーを受けるのをやめたのは、1994年の事。1本でも多く作りたい事と思います。
Showmanの待ち時間も今では6年になってしまいました。
Barenbruggeやこれらのメーカーは、何故芯材を使わないのでしょう。


キューは動くし、作りにくいし、時間は掛かるし・・・・結果、製作本数も大変少ないのです。価格も国産のプロダクトより、ほんの少し高いほど。
マーケット的にもとても恵まれた環境とは言えませんね。

キューメーカーは怠け者かって??
もうその話はよいでしょう。彼らはいつもお金がない…。と言っていますが、量産化はしないのです。
『武士は食わねど、高楊枝』とは日本のことわざ。
アメリカでは『キューメーカーは食わねど、長楊枝』なんです。でもたった5・6人かな?