ヨモヤマバナシ

【 Theme Cue 】

掲載日 2008-10-26

ICCSではここ数年、毎回『Theme Cue(テーマキュー)』というものをコレクターにオークションで紹介しています。
その回ごとに、参加するキューメーカーにある1つのテーマでキューを作らせます。そしてそれをセットオークションにかけ、高い値を付けた人が購入出来ると言う訳です。
キューメーカーにとっては忙しくなるので大変ですが、ちなみに前回のテーマは『グレコ・ローマン』で、今回は『ロイヤリティ』でした。


以前には『テキサス・ローンスター』とか『タキシード(黒・白・シルバー)』などというものもありましたし、珍しい銘木のセットもありました。
1本の金額を$4,000なら$4,000と決めて、キューメーカーに保障し、それ以上の価格のキューをテーマに沿って作らせるということです。
今年の作品群は私の眼で判断しましたら、大体11メーカーで$80,000(平均$7,500)位ではないかなぁと感じました。
理由は色々あるけれど、ほとんど全てのキューが1本物であること。中には1本$10,000はするなぁというキューが2ブランド入っていて、その他にも1本1本がユニークで、持っていて愉快なキューばかりでした。さすが選ばれた精鋭の作品ばかりです。


ThemeCueについては色々賛否があるでしょうが、キュー好きの立場としては、メーカーの個性が出ていて、これは誰のキュー?こっちは?などと皆で意見を交換して盛り上がる、大変値打ちのあるプロモーションだと思います。
皆の賛否の中、私がとった行動は、Samsara・Schick・Bender・PFD・Manzino・Gilbertなどと個別に会って『もし、もう1本同じものを作るとすると、いくら?』と聞いてみました。あ・JossWestとArtherにも聞きましたね。
そしてその答えと会場の意見、そして私なりの独自の意見…。
これが見事に分かれたのです。


会場のほとんどのキューメーカーが、『どうせ$4,000しか貰えないから、程ほどにしかしなかったよ。』と言ったのです。そして彼らの口から出る価格は『$4500・5000〜6000かな』というのがほとんどでした。
ところがお客はインレイの数や豪華さに見とれて判断しています。
『あれは2500〜3000、あれは7000、こっちは1万近い…』そんな感じです。私?私はインレイの数はさっぱり問題ではなく、見ていて美しいかどうか、木材の使い方は?デザイン性は?どのくらいこだわっているか…そんなバックをついつい見て、それに1本物(One of a kind)という付加価値をつけ、価格を決めます。皆と私でキューの見方がこんなに違うんだぁというのには正直驚いたもんです。


(逆に私の意見にはPFDやJoss Westも驚いていましたが。)
カスタムは持っていて嬉しい満足感、これが全てです。キューに対する基本概念がプロダクトキューとは全く違います。メーカーの個性やこだわり、それに加えて素材やデザイン・シャフト材などにも充分留意したいものですね。

ICCSの会場には、少なからず招待されなかったキューメーカーもいました。今回もDennis Searing・Paul Dayton・Ron Haley・John Showman・AE cueその他私の知らない若手キューメーカー達も数人いたようです。
彼らとの共通した会話は、皆、現在のキューの進行状況や自分のキューの特性などをゆっくりと説明したがることです。
それから今回のShowで得た知識やアイディアをこれからの自分のキューにどう活用できるかを記憶しているようでした。


Searingは一語一語、単語を並べながら『Luckyのキューは、えーと…もう少しで、出来上がるよ。ただ、僕は本当に君の望むものを作りたいんだ。分かるだろ?ん〜、それで・・・どんなデザインが好きなの?』こんな話を、ここ数年、顔を会わせる度にしています。今年の6月末にフロリダに行って、彼のショップに寄った時は『ICCSには必ずLuckyのキューを2本持っていく、ICCSに来るよね!』そう言ったのは4ヶ月前でしたが…。
キューメーカーとはこんな人種です、ホント。
Showmanとはこんな話でした・・・


やはり6月末に彼の所に寄り、3泊したのですが『もうすぐあのキューは出来るよ。あと2週間ぐらいかな?』
あのキューとは本当に見事なピンクアイボリーのキュー。Johnのキャリアでは最高の1本だそうで、こんなにきれいで見事なフィードルバックのピンクアイボリーはないそうです。間もなく10月末ですが、まだ完成してません。

会場の知り合いに言われましたが、今アメリカでは、Showman・Hercek・それからManzinoが人気が高く、値段が高騰しているそうです。


Showmanのバックオーダーは約6年。年に24本程を仕上げたいとは彼の希望ですが、年老いた母と幼い3人の子供の面倒を見ながら20本を仕上げるのは本当に大変なようです。
Johnは7月からダイエットを始めて、今では30kg超の減量に成功しました。今回最初に会った時も、実は全然分からなかったのです。30kgの違いってすごいですね。


それでもまだ130kgほどだそうで、あと1年近くダイエットを続けなければならないそうです。(いったい何キロが目標なの?)
ダイエットをして良かったことはヒザの負担が減ったこと、腰が痛くならないこと、おかげで年間の生産本数が増えそうだよと言っていました。この点では嬉しいことばかりです。


Johnと会場の外でしばし雑談。どうして彼は毎年、ICCSに来続けているのか興味があったのですが、彼は『勉強』という返事。
ShowmanやSearingにはこんなShowは必要ないというのが私の意見ですが、彼らは全く別の意見なのです。
Showから一生懸命何かを得ようとしていました。
私からみると、自分たちのカラーというか、持ち味を自分で否定してしまっているようで残念ですね。


ICCSは全て、インレイのキューの展示で、GusやGeorgeなどには眼もくれません。本当に良いものはもうほとんど出てこないからというのも理由のひとつでしょうが…。それから鑑定するのも難しいところです。
それよりも新しいキューで波を作りたいというのがこのShowの目的のひとつで、そういった点から見ても、SearingやShowman達は、永遠に招待されません。全く対岸のキュー作りをしている作家郡達のShowなのです。
キュー作りはある意味、時計などと似ていて、球を撞くだけならどんなキューでも撞けます。


道具とはそんなもので、目的のためだけなら別に何でもOKなのです。
では何故、同じ道具なのに一つ何千万円、中には億もするものまであるのでしょう?
物づくりをする人にとって(この場合はSearingやShowmanですが)作品は自己表現なのでしょうから、自分のキューをとことん追い求めて欲しい気がしますね。
他人が綺麗なインレイを入れているから…といってインレイマシンを買い、スクリームショーが流行りだからといってスクリームショーを入れるのは、私は彼らにとっては自殺行為だと思われます。
今までの努力と全く別のものを幼稚園レベルからはじめても、とうてい敵うわけはないのです。


本来SearingはGus Szambotiを使うTopプレイヤーとして有名でした。Gusの死後、自分の心にあるようなキューは誰にも作れない、では自分で作ろうと考え、精進してここまでになったのです。もう20年近くもプレイヤー専用のキューを作っていて、彼のキューは大変評価されています。
Showmanも又、BalabushkaやGusのオールドスタイルに啓蒙され、キューメーカーになりました。


昔ながらの作り方、工程を踏み、1本1本時間を掛けて作り続け、今年で16年、やっと桧舞台に立つことが出来るまでになりました。
彼らのキューはインレイも小さく、シンプルなもので充分、金銀ぴかぴかの物は他人に任せるべきだと思います。
私がShowmanをプロペラのアーティストと呼んだのもここに理由があったのですが・・・。


ここでShowにて気付いたことを更に1つお知らせします。
ほとんど全てのキューメーカーは今、Scrimshawをキューに入れています。
Scrimshawとは針の先で点刻してカメオのように彫り上げたり、そこにインクを入れて、絵柄を浮き上がらせたりするテクニックで、ガラスや象牙・石や骨など、素材は色々選べます。


拳銃とかナイフ・ライターなどにも彫られているので、みなさんもご覧になったことがあると思います。
ただしこの技術は大変根気が必要で、手で行うと1cm四方に1時間ほどかかると中国の友人に言われました。
目も酷使するので年老いたキューメーカーにはとても無理な仕事ですね。
キューメーカー達は、当然外注する訳ですが、自分のキューを最後に他人に手を加えさせ(それもアートの大部分)どうだ!というのはあまり感心しません。


Scrimshawの作家としてキュー業界で有名なのは、何と言ってもSalman Rashidi。私は彼とはもう15年ほどの付き合いですが、大変なアーティストだと思います。主にPaul Motteyのキューに作品を残していますがどんなテーマでも希望を伝えると、想像以上の作品に仕上げてくれます。積極的にキューの上に作品を残している点では、第一人者で、細かい線から太い躍動的なものまで、なんでもこいの人ですね。
Motteyの他にはL○○○○○・B○○○○○・S○○○○○のキューにも彼の作品が見られますね。


次に有名なのはSandra Bradyという妙齢の女性アーティスト。
4・5年前にSuper Billiard EXPOで小さく出展していましたが彼女の作品はP○○に見られます。
女性らしい細やかなタッチの作品が特徴で、ガンやナイフにも多くの作品を残しています。


それから、今年のICCSに1本作品を残していたのがBob Hergert。彼の作品はとにかく美しい。Joss Westのキューに変形のオーバルにカメオのように女性の裸体をのこしてくれました。彼は手ではなく、全てコンピューターで写真などをベースに点描のような方法で画像を復刻していくそうです。今まで見たScrimshawでは一番美しいと感じましたが、機械で作業をするため、何か味が1つ欠けるような気がしました。


もう一人はCrystal Herbert。彼女はAndy Gilbertのキューにも作品を残しています。
手で行われているのが良く分かるし、これからどんどん依頼を受けると思われます。


※ Scrimshawとパンタグラフとは似て非なるもので、SzambotiやShomanなどはパンタグラフ、銅版などに彫ったデザインをキューの表面に縮小して彫り写して行う方法で、ピーコックとか、文字とかに使用されています。
それに比べるとScrimshawは図柄を対象物に書き込んで、それを針先などで彫りこんでいく技法。キューメーカーではS○○○○○が有名ですが、私の判断では、彼が実際に行っていないものもあると思う。絵柄を見ると、自分で手掛けたものと、外注したものでは一目瞭然で、自分で手がけたものは簡単な図柄で荒削りな印象を与える。まぁ余談ですが(笑)

それでは、また次回違う話題でお会いしましょう。