ヨモヤマバナシ

【 フロリダ便り 】

掲載日 2010-06-30

えっ…なんで???
なんでピザをマシンに乗せてるの…??刃物が回ってるよ、機械で切ったら…
アーッ、アーッ…っというところで目が覚めました。
うーん… 夢だったんだね。

私は今、フロリダのDennis Searingのショップにお世話になっています。
ここにきてもう3週間にもなりますが、面白いやら忙しいやらで…正確な日本語が思いつきませんね。
ただ、夢にまでマシンが出てきてピザまで切っちゃう、というのだからエンジョイしまくってますよ!
ここで学んでいることは、キューの構造、カットの仕方、先角に対する考え方、刃物の選び方などだけでなくて、毎晩のアップルティーニ(Dennisが奥さんと僕に作ってくれるんですよ♪)と可愛いペット達のお世話、そしてアメリカンジョークの面白さももちろん付いてきます。
まぁ3大特典つき!ということですね。

Searingはキュー製作歴が20年前後というのに、今仕上げているのは1995年のオーダーだったりしますので、ほとんど入手不可能と言っても良いのかな。
今、アメリカで最も人気のあるうちの一人です。
こちらに来る前は『今回滞在させてもらってなんとか彼のキューを…』なんて下心も持っていましたが、あまりのお客の多さにGive-Up!
ちなみに私のオーダーは2002年のところに入っていました、出会いが遅かったのですからしょうがない…ガッデム。

ここで彼の仕事のレベルをひとつ紹介しましょうか。
昨日は初めて革巻きを見せてくれましたが、やはり驚くのを通り越して呆れてしまいました。
ただし、仕上がったものを見て明らかに今まで自分の知るレベルではないことも、見て、触って、握って分かります。
巻き上げたのはSchonの普通のキューで、それにプレデターをマッチングで作り、塗り直して革巻きで仕上げる、というものでした。
巻いたのは黒のエレファント、少し柔らかくてトリッキーだそうですが、これ以上はないというほど綺麗に巻き上げました。
出来上がってバットとシャフトをつないでみると、デザインこそSchonですがキューは全くの別物になっています。
夕方6時半に終わり、お客さんに電話したら「急いで行くから待っててくれ。」ということでした。
もちろんお客さんはとっても嬉しそうに…大事に抱えて帰って行きました。
うーん、いいものを見せてもらったなぁ…♪
このキューはきっとここに一か月ほどあったのでしょうか?

DennisによるとSchonというキューは大変良いキューだそうです。
木材だけでキューを作り、曲がりも少なくてステンレス等も良いものを使っている、とのこと。
ピカピカに磨き上げられたジョイントを見てこれを喜ばない人はいないよな、と思うし、象革をここまできちんと巻く人も私は見たことがありません。
DennisはもともとGolfで大学に行っていたほどGolfの才能がありましたが、19歳の時に車で大事故を起こし、半年の入院を経験しました。命が助かった代わりにGolfでの生計を諦めなければならず、リハビリ代わりに始めたのが Poolでした。
彼は瞬く間に腕を上げ、2〜3年で大きなトーナメントに出場するまでになりました。
その時に使っていたのがGus Szambotiで、友人からGusを紹介され、Gusと電話で話をして頼んだそうです。
最初の1本はあまり好きではなかったようで、Gusにその理由を伝えたら、彼はすぐに次のキューを作ってくれたのだとか。
お金に困り手放してしまいましたが、Gusはさらにもう1本を作ってくれたというのです。
私はこの話を聞いて…はっきりいってこれも夢なのか!?と思いたくなりました…。とても信じられないほど羨ましく…イヤになっちゃいますね…(笑)
DennisはGus個人とはかなりの時間話をしているそうで、色々と昔の話、面白い話を教えてくれました。
でも、反面そのおかげでGusの作品が少ないのでは?と文句を言いたくなりましたね、優に100時間以上話しているそうですから。
ま、その話は置いといて…Dennisがキュー作りを始めるきっかけになったのは1988年のことです。
そう、頼っていたGusが突然に亡くなってしまったのです。
いろいろ自分のキューを頼もうと考えてもどうしても信頼できる人が見つかりません。
仕方がなく自分のことだけをしていたのですが、周りから色々と頼まれてリペアしてあげているうちに、頼まれる内容が段々と深くなって行きました。
プレイヤーとしてはプロツアーで2連勝したほどの腕前で、相手はBuddy Hall、Steve Mizerak、Nick Varner…などというそうそうたる面々だそうです。決勝はCory Duelで、最初は6-1ぐらいでリードされたけど終わってみれば13-6で優勝したそう。
次のトーナメントの決勝はBuddyでスコアはヒルヒル(フルセット)…9ボールがショットがなくて短-短のセーフティ…それからお互いセーフをしたけど、また同じような球が来て…。テーブルがしぶかったけどバンクで行ったら最後はカタカタ…としてから入ったんだ。周りは大騒ぎで…楽しかったね…。と話してくれました。
聞いていてその光景が目に浮かぶようです。

なぜそんな彼がキューを作り始めたかというと…
「自分の為に作ったキューでトーナメントに出ていたんだ。でもトーナメント会うプレーヤーが僕のキューをつかんで離さなくて、作ってくれって頼まれて最初に作ったのはSteveのキューだったかな…。
Buddyのキューも作ったんだ。彼らのキューはスポンサーがついていても、頼まれて分解して繋ぎ直したり、シャフトを作ったりもしたよ。
たくさんのプロのキューを手がけたんだ。Jeremy JonesがUSオープンで優勝したゲームで、解説のB.IncardonaがJeremyのショットの合間に自分のキューのことを暗示する会話をしたんだけど、あれは聞いていて嬉しかったね。“Jeremyはミスしないね、きっとフロリダのキューを使っているから”とね。
Efrenのキューをしたこともあったな。トーナメントの途中で彼のお父さんが亡くなったNewsが入ってきたんだ。だけど彼は飛行機のチケットが手に入らなくて、その後彼はお父さんに勝利を捧げることを決断し、一方的に、まさしくみんなをぶちのめしたんだ。そして試合の後に僕に100ドルのチップをくれたんだ。誰の仕事もただではしたことがないけど、チップをもらったのはたった1人、この時のEfrenだけだね。」
私はDennisのたくさんの話を聞いていて、彼は多くの知識をリペアから学んだことは間違いなく、またシャフトに対する深い造詣は世界的なトッププロ達からの要求からもたらされたことだ、と確信しました。

ここでDennisから日本の皆さんに問題です。
「プレイヤーで一番お金を稼いだのは誰だと思う?」とのことです。
さてさて???賞金を稼いだのは、もちろんPoolではEfrenだと思います。
ところがところが、アメリカで一番有名なのはダントツでMizerak…。彼は若い時にMiller Light(ビール)の広告に出て有名になり、引退後は中国製のキュー(1本39ドル)を引っさげてウォルマートなどの百貨店と次々契約し、毎年75万本を売ったそうです。自分の取り分は6ドルですが計算すると…すごい額になりますね。
Caromでは、なんといってもウィリーホッピ!Hoppe Styleというバンパー(尻ゴム)のないプレイキューの名前でご存知の方も多いと思いますが、彼が活躍した頃は試合の木戸銭が賞金でした。リーグ戦の観客数はなんと数万人ということもざらだったことが当時の新聞にも載っていますから、鬼人のごとく強かった彼は、当時では群を抜く賞金王でした。今の金額でも数億円を毎年稼い
だだろう、とのこと。
ところで前述したバンパーのないモデルのことですが、彼がプレイしたキュー(実物)を手にする機会があって愕然!!なんとバンパーが付いているではありませんか!!聞けば彼はいくつかプレーキューを持っていて、使い分けていたようです。本場アメリカのキュー好き達ですら知らないマル秘情報でした♪ホントのことです。

うーんずいぶん話が飛んじゃいましたね… どこまで巻き戻しを、と…
えーと、私がここにいる間、Dennisの昔の作品を何人かが持って来たので見せてもらいましたが、どれもすごい!!文句のつけようがありません。どのキューもさほど華やかさはないのですが、『Pool Cueとはこうあるべき』という心が伝わってきます。
自分もここまでできるだろうか、いや目指さないとね、そのために今ここにいるのだから…。

今、Dennisのショップにはもう間もなく仕上がるキューが4本ぶら下がっていますが、どれを見ても一見特別なものではありません。私は最初に、これらのジョイントキャップだけで約45日間かかっている、とDennisに言われて驚きました。
その時は内心『きっと毎日ゴルフに行ったり釣りに行ったり…だからできないんだな』と思いましたね。
DennisはPool Playerとして大変有名で、そしてGolfでも有名で、釣りでも有名ですから、私がそう思っても仕方ないことです。しかし今回来てみて、奥さんがうらやむほど私は毎日彼と一緒にいますが、毎日11〜12時間きちんと働いていて、それは感心するほどです。ここ数年間で休んだのは2日ほどだと言っていました。
奥さんは一緒に遊びに行きたいようですが、彼はどちらかというと日本人のようなタイプなんですね。だから毎日遊んでいて仕事が進まない、なんてことはありませんでした。とにかく本当に仕事ばかりしています。そして家にいる時は…べったり♪ですね。
これで収入があれば旦那さんとしては最高なんでしょう!
しかし残念ながらキューメーカーはお金がありません…。素材もたくさん買って保存しなくてはならないし、機械もツールも驚くほど高いのです。

キューメーキングとしてこちらで流行っているのは、パーシャルをパーツメーカーにオーダーしてそれを組み合わせ、「自分で作ったカスタムだ!」と言って高く売ることですが(現実には日本でもいますよ)彼は全く反対ですね。
いずれお話しすることもあると思いますが、Dennisは私が認める現在世界No.1だと思います。
Pool Cueに関しては私とはかなりの部分で意見が合います。メーカーとして全く経験のない自分の意見にもきちんと耳を傾けてくれ、また、自分の意見もはっきりと主張します。彼によると私(Lucky)はキューの世界では数少ないきちんと話をできる人間だそうです。
今回もかなりの部分で意見が合いましたが、彼はまだ私の知らない部分をたくさん知っています。
ステンレススティールやシルバーの仕上げ方、グルーイング(接着)、フェィシング、サンディング…
先に挙げた革巻きの方法とか、現実のテクニックにかけては彼にかなう人はいないのではないかと思います。
ただ、神様は良くしたもので、彼はデザインに関してはまだまだ勉強する必要があると思いますね。
私が助けられる部分はデザインと構造ではないかと思っています。
彼に言ったのですが、神様はたくさんの才能をくれたけど、きっと少しだけ誰かと間違えたね、デザインセンスを誰かに渡したその代わりにジョークのセンスをDennisにくれたんだ、とね(彼は顔を真っ赤にしていろいろ言ってきました)。
だけど、そのおかげで誰にもできないことをDennisはじっくりとしています。例えば5/1000インチのBitを使ってインレイをしていることです。現在、1/1000インチのBitもあるようですが、使い方はひっかくだけだったりで、切り取ったりポケットを作ったりしてるのはDennis1人だそう。これはキューの世界に限らない話です。
ちなみに机上で計算しましたが、小指の爪より小さいひし形のインレイを10/1000インチのBitで削ると13工程で、5/1000だと265工程になります。すごいのはここからで、Dennisはポケットとインレイを全く同じサイズで作ります。わかりやすく言うと…接着剤の付く隙間もない、ということです。
彼のこのアイディアは、隙間があればある程キューの性能が落ちるし、天然から離れていく、ということから来ています。彼の旋盤でキューを削る作業の許せる誤差の範囲は0.025ミリ以下で、フライス盤にいたってはミクロン単位の違いしか出ないそう。使う刃物の差や削られる素材の温度による違いの方がずっと大きいと言われ、驚きました。

ここでの大きな楽しみの1つはお昼御飯です。勉強ばかりではつまりませんからね(笑)。
毎日ランチタイムには車で軽く出かけるのですが、対向車が交差点で止まらないと、「あぁ、あっちからはこの車に誰が乗っているか見えないんだね。あ、今日はレッドカーペットが敷かれてないのか、しょうがないなぁ。」など、彼は常に何か面白いことを言います。「Do you know why?」ときたら何か必ずジョークがきますからね、覚えていてくださいね。
そのうち秀逸ジョーク集をだしますか!