ヨモヤマバナシ

【 0.5インチの謎… 】

掲載日 2009-05-14

「0.5インチの謎」を考えたことがあるでしょうか。
“ナニ、ソレ???”という人がほとんどであろうと思いますが、カスタムキューの本場アメリカでさえ、このことをきちんと説明できる人はきっと一人もいないと思います。


唐突ですが「サウスウエスト」とは、新しくキュー作りを始める人のほとんどが自分の作るキュー・作ったキューと比較するときに口に出すブランドです。
自分が作るキューをGus Szambotiを意識して、とか、Ginacueを真似て、Balabushkaを参考に、などという人はまずいません。9割以上の人間が“サウスに比べて”とか“比較すると”とか、“サウスの構造を真似て改良した”とか言うのです。


では現実にサウスを超越したキューはいくつあるのだろうか、というと、残念ながら答えは“ゼロ…ない”のです。
これは昨年一年間とかの話ではなく、ずっと遡って1990年頃からの話であり、私一人の独断とか偏見ではありません。アメリカでもキュー好きの人間は多く…、でも誰の口からも自信を持って出てくるキューメーカー名はないのです。
Bobは?Bob Manzinoは?なんて小さい声で心の中でささやくのは東洋のちっぽけな島国のカスタムキューファンという族のManzinoという個体を所有している種だけです。ムシ、ムシ…話が進まないからね。


では、なぜサウスウエストの名をキュー作りを始める人は口に出すのかというと、答えは簡単、ジョイント形態がフラットフェイスだから。
え?なにそれ?という人もいるかもしれないので、少し説明すると、ジョイント形態はサウスウエストが有名になる前はパイロテッドが主流というより、パイロテッドのキューメーカーしかなかったのです。
JuddやMeucciは?という声は無視できないので補足すると、JuddやMeucciなどはフラットフェイスではあるけれど、ピンの径が細身のものを使っていて、打感はよりクラシックな撞き味を求めています。
じゃあHueblerは?Mc Dermottは?Schragerだってフラットフェイスだぞ、という声も聞こえてきて…、待て待て、カスタムもプロダクトも皆一緒になってるヨ。ま、いいけど…よく考えてみるとその声にも一理はあるネ。


では表現の仕方を訂正して…、フラットフェイスの代表としてサウスの名を口に出したのです。ではどうか?
その他にもフラットフェイスのブランドがあったが、しなりを重視したテーパーで、グリップが細身のJuddやMeucciとか、グリップが太いのだがバットエンドにウェイトボルトを入れてしなりに工夫をこらしたSchragerやHuebler…、あ、そうか、打感を使って説明すれば簡単だね!


なぜキュー作りを始める人はサウスの名を口に出すのかというと、サウスがソリッドな撞き味の代表として一般に普及しているからです。これでどうだ!


では、なぜソリッドな撞き味を皆超えられないのだろうか、と疑問に思うでしょう?そりゃ皆同じ土俵で勝負したら勝てませんよ。サウスウエストの1990年とか93年とかノーシリアルの作品と、作り始めてから5年や10年のポッと出のキューメーカーでは競争になりません。“木違い”です。いくらジョイントを真似て作っても、同じ6剣ハギにしても、シャフト材が違いすぎるのです。


サウスウエストをずっと最初の頃から振り返ると、出来立ての頃のキューは腰が弱くてしなります。師匠がKersenbrockだったせいもあって(Kersenbrockは古くてもSWより幾分柔らかい物が多い)、ジョイントも細身で80年代末と比べると驚くほど柔らかいのです。
ソリッド感が出てくるのは80年代中期からで、私も好きで一時期は30本か40本持っていましたが、…今は全て手放してしまいました。
その頃のシャフトは少し赤木の物で、なかなか細くならず、半年・一年と使っているうちに他のキューとは全く違う独特のキューに変わります。チョークや手垢で汚れるのですが、まさに“脂がのる”無敵のソリッドキューになりました。
このような状態のシャフト材がついてきたのは92年ぐらいまでじゃなかったかな、と思います。


こんなキューを皆サウスウエストという名のイメージで語るわけで、その性能と5年や10年キューを触ったぐらいの職人さんのものでは、腕の良し悪しより素材が違いすぎて話になる訳がありません。
キューメーカーが自分のキューを説明する時は、サウスウエストという名は出すべきではなく、伏せるべきなのです。素材が違くて比較の対象にしたら損するばかりですから。価格を比べるなら別ですがネ。


昔のサウスウエストと現行のサウスウエストの市場価格が違うのにはそういう理由があり、昔の物でコンディションが良い物に評価が集まるのです。これはサウスに限らずTADなどもですが、年代とコンディションはとても重視されます。古くて良いコンディションはどうしても高価になってしまうわけですね。


昔の物が良かった、なんて懐かしむことをノスタルジックと言いますが、キューに関してはそれは大きな誤解ですネ、ノスタルジッキュー(笑)
サウスウエストに限らず言えることですが、まず接続が弱い、これは接着剤が今と昔では全然違います。それから“塗り”。これも20年前、30年前と現在では月とスッポン!素材の違いと設備の差が如実に出てしまいます。これを「ウデの差」の一言で片付けてしまっては可哀相です。
この2つはどんなに頑張って私が昔の物を応援してもダメです。
構造に関しては独断になりますが、今のものと昔のもの…、良し悪しですね。
まだまだ研究の余地があると思いますが、皆が研究しているのは早く作れる、簡単に作れる、大量に作れる、安く作れる、という方向軸をベースにしていますから、比較することが難しくなっています。
これはキューメーカーと直接話をしても会話が噛み合わない原因ですね。なぜ?という疑問と、こうすれば、という解決法が全く違うところから出てきてますので、答えが違うのも当然です。
これは日本のプロダクトにも通じる部分がありますね。


おっと、話がそれてしまいました、今回はサウスの話でしたね。
サウスウエストに関してもこれらの話はあてはまります。
カスタムキューでトラブルが一番多いメーカーと言えば、私の経験ではサウスウエスト、これが断トツ!!だと思います。
まず、キューが曲がる、というか、まっすぐなものが少ないこと。
サウスウエストは現在オーダーを入れると10年待ちというほどの人気ブランドですから、新品をメーカーから手に入れるのはちょっと至難の業。勢いセカンドマーケットの動きの中で欲しいものを調達するわけですが、10本見て1本良いコンディションがあるかどうか…ぐらいのブランドです。日本人がコンディションについてうるさすぎるというのもありますが、デザイン、価格などよりコンディションが一番重要なポイントになります。
ちなみにアメリカのネットから買うのは私は絶対にしませんね。
もう一つ、見逃せないのが“音鳴り”。キューをつないで軽くたたくと鳴るビーンというものではなく、パーツの浮きからくる音鳴りです。これはサウスウエストだけではなくどのブランドにもよくある(あった?)話で、音鳴りしないキューは多分ゼロです。なぜならば、接着剤が今とは比較にならないほど悪く、素材別に接着剤を使い分けるなどというテクニックもまだなかったのです。古い物ほどこの傾向が強いですね。


日本のみならず世界中のカスタムファンの1番人気はGinacue、2番人気はSouth Westだと思いますが、トラブルが大変少ないGinacueに比較してなぜSouth Westは多いのか、ということを考えてみましょう。(ファンの数ではなくて、トラブルだよ!念のため…)
それを語るには、まずサウスウエストの生い立ちを見逃すわけにはいきません。
サウスウエストは元来地元のプールプレイヤーをターゲットにしてキュー作りをしてきました。現在のようなWorld wideのマーケットを意識したものではなく、1980年代末や90年代初頭でも、アメリカではそれほど評価されたキューではなかったのです。今では信じられない話ですが、LAやHawaiiではいつも簡単に手に入るキューでしたし、逆に東海岸では誰一人として見たことも聞いたこともないブランドでした。地元のプールファンを意識してというか、地域に根ざして普及していた証ですね。
1バット1シャフトの作品も大変多く残されています。(これはD.P.Kの影響か、当時のプールキューに対する基本スタンスかも知れません。)


キューが曲がるというと、色んな理由がパーツごとにあります。
まず、シャフトが曲がるというか、サウスの場合は動きます。私が持っている古いカスタムキューでカーセンは動かないのですが、サウスは春・秋に動きます。私もこの頃は慣れたもので、あ、動いているな、ぐらいの目で見ていますが、集めていた当時は驚きましたね。チェックする度に曲がっているキューとその数が違うんですから。Gusはほったらかしても平気なのに、ブランドでこんなに違うとは思いませんでした。


サウスはネバダ州のラスベガスにShopがあります。ラスベガスはカジノで有名ですが、元々は砂漠のど真ん中で一年中乾燥している所です。よく乾燥している木はプールキューに向いていますが、木は空気中の湿度を取り入れます。“湿度を取り入れる”イコール“曲がる”ではありませんが、中には私が表現したように“動く”物も少なからずあるわけです。
Gusのキューが私の家でほったらかしでも平気というのは、GusのShopはアメリカの東北で、私の家も日本の東北なので、キューにとって居心地が良いからだと思っていました。湿度の状態がたまたま似ているだけで、大きな勘違いですね(笑)。


サウスのバットは大きく3ピースの構造ですが、ほとんどの曲がりがハンドル部の反りです。
木工製品の塗りとは光沢を出す為と思われがちですが、実はもう一つ大切な役割があります。それは製品の湿度を保持することです。使用する前にどんなに木を寝かせても、塗装がなければ湿気を吸って歪んできたり、乾燥して割れたりするのです。
プールキューの場合、今でこそハンドル部が糸巻きのものは少なくなりましたが、当時のサウスウエストはほとんど全部が糸巻きのもので、その下地に塗装はされませんでした。きっと、ノリをつけて糸を巻くので大丈夫、と思ったのでしょう。地元メインなので修理もすぐにできるし…位の感覚で、まさかこんなに世界中に拡がるとは夢想だにしなかったはずです。


80年代のサウスウエストは、球を撞くための棒っきれと言えば怒られるかもしれませんが、塗りも磨きもあったもんじゃなく、まさに地元のプールプレイヤーを志向して作られた木工品。本当にソリッドな撞き味だけが売りのキューでした。
ジョイントキャップを必要とする人がほとんどいなかったと聞いています。皆、車の座席にキューを投げ入れ、ビリヤード場に着いたら鷲掴みにしてすぐつなぐ…。私もずっと気がつけば自分のプレイキューにはジョイントキャップを付けていませんから、プレイヤーとはそんなものではないでしょうか。1970年代、私は新聞紙にキューを包んで山手線に乗りましたからね。キューとは棒っきれだったんです。今とは認識も価格も違います。当時一番安かったサウスは多分300ドル前後。それがあれよあれよと見る間に上がり、500、600、800、1200…、そして予約制になり、今じゃ10年待ち!サウスは本当に変わっちゃったなぁ、と思います。


今日は5月11日、私の大好きだったJerry Franklinが亡くなったのは1996年の今日でした。
彼はとても木材が好きで、英語を理解できない私をShopの隅から隅まで案内してくれました。何時間Shopにいても何一つ文句を言わず、いつもニコニコ笑顔で、本当に素敵な人でした。


Jerry…、なぜサウスウエストのキューはバットよりシャフトが0.5インチ長いの…?今の僕にはまだ理解できません。多分、布ケースに入れやすいからかな?キャップがなくてもカラーが傷つきにくいからだよね。
初めてサウスを撞いた時、新品なのに古くてよく締まったハウスキューを撞いた時のように感じたっけ…。それが、あなたが目指した撞き味の原点かな?だから世界中の人が今でも欲しがるんだよね!