ヨモヤマバナシ

【 仕上げ最前線 】

掲載日 2009-04-01

世間ではWBCがどうのとか、日米決戦だとか言ってたようですが、もちろん私も興味がありTV観戦(アリゾナで)。
そしたらなんとFloridaのCaptain Bobより電話がありました。


Bob Manzinoを知らない人もいるでしょうから少し彼についてお話します。


Bob Manzinoとは、現在カスタムキュー業界の中ではたぶん一番注目されているキューメーカーで、ShopはFloridaの東海岸、Boca Ratonという避寒地にあり、年に10〜15本程のキューをたった一人で製作している人です。
私は彼をJoe Gold(Cognoscenti)を通じて知り合い、年に3、4本程を作ってくれる間柄となりました、まぁ気に入って貰えた、ということでしょう(エヘン!)。
彼のキューを新品で手にするのは大変難しく、アメリカのディーラーでさえも年に1本手に入るかどうかで、ほとんどが中古のマーケットからキューを仕入れている状態です。


その彼が私に聞きたいことがある、と言って電話をよこしたのですから、私も少し緊張しました、ウカツなことは言えませんからネ。



Bob 「Lucky、Super Billiards Expoには行かなかったのかい?どうして?」
私 「ウーン、今キュー作りを始めて…まだ木材をカットして機械操作に慣れているところだけど…、Showに行くよりはこっちの方がずっと愉しいし、自分にとっても重要だと思う。Bobはなぜ行かないの?」
Bob 「わざわざ行っても会いたい人もいないしね。Showには何年かに1度で十分だよ。時間がもったいない。ところでLucky、今キューの仕上げで一番キレイなのは誰だい?」
私 「(エッ!)……どういう意味?」
Bob 「イヤ、自分の仕上げを変えようかと思ってね、誰のが良いかを参考にしたいんだよ。」
私 「一番は、多分、Dave Barenbruggeだと思う。正直に言うけど…。」
Bob 「Lucky、Daveは自分が競争する相手ではないんだ、彼はメタルを扱わないだろう?」
(あ、そうか!Bobは異なった素材(木材とメタル)を扱うキューメーカーの中で誰がベストか、という質問をしたんだ…、とすると答えは…)
私 「ウーン、まずTony(Black Boar)、それからErnie(Ginacue)かなぁ。」
Bob 「うん、やっぱりErnieだよね。」
私 「どうしてそんなこと聞くの?」
Bob 「いや、自分は今までCognoと同じイムロンを使っていたけど…、最初の数年はとても良いけど、数年経った後は硬化してチップしたり、白くなったり…。今自分のキューのお客さんのほとんどがコレクターなので、もっと長く良い状態を保つフィニッシュ(仕上げ)に変えようかと思うんだよ。」
私 「どうするの?」
Bob 「うーん、設備もかかるけど、パールコートって知ってるかい?フィニッシュを塗った後に光源を当てて乾燥をさせる方法なんだけど、SamsaraやBenderなどがやっているUVで今評判な方法で、それを始めようかと思っているんだよ。」
私 「あぁ、耳にしたことあるよ、車の塗装ブースだと設備一体だけで1000万円以上かかるって聞いたことがあるよ。(でも私は誤解をしていたようです。)」
Bob 「BenderやSamsaraの評判を聞く限りでは自分もそれに変えてもいいかな、と思ってね。Luckyはどう思う?カスタムキューはたくさん見てるから一番詳しいよね?」
私 「イヤイヤ…全然わからないよ。僕らの眼とキューメーカーの眼は見る所が違うからね。僕らはキューを仕上げだけで見ることはまずあり得ないもの。」


この後、景気の話やManzinoの今年の秋までの作品、私のFlorida旅行計画など、30分程話したかな、と思います。


Bobとの話が終わってTVの前に戻ると、チャンネルはWBCではなく“Biggest Loser”というおデブさんの番組になっていました。

アメリカでは「WBC?何のこと?」てなもので、誰も興味を持っていません。
大学のバスケや高校のバスケ以下の扱いで、スポーツセンターという番組でもメジャーリーガーがWBCで精一杯頑張らない理由を皆述べていました。


ま、それはいいとして…。仕上げの結論を私の見方から述べてみたいと思います。
Bob Manzinoのジャンルの中でのベストフィニッシュを持つメーカーは?やはりGinacueだと思います。
どのキューメーカーがフィニッシュ素材をいくら変えてもGinacueにはかないません。
Ginacueは素材を最終サイズまで削り込んでから5、6年は寝かせます。
削り終えてから自然に乾燥させて収縮するところをそれ以上は収縮しないというところまで寝かせるわけです。
塗りがのるバットだけでなく、シャフトまで全部寝かせるのです。


Bobが言ったMetalというのは、熱があたれば膨らむけど常温では変化がない素材です。
逆に木材は年々やせていきますね。
ゴールドやシルバーなどを用いたキューで木材との間にギャップが生じて浮いて見えたり、割れてしまったり…ということが現象として見受けられるのですが、その問題解決ということにたった一人だけ別世界というか、別次元のアイディアでキューを作っているのがErnie Gutierrezで、木材を充分に寝かせるということを実行しています。彼から理由を聞いたことがありませんが、私の頭でもErnieのしていることが少しずつ理解できます。
彼は誰に理由を告げるでもなく、自分で最善と思うことを一人で実践しています、大したものです。


次に私の中で評価しているのはやはりBlack BoarのTony。
彼の仕上げは大変薄く(薄いのは大変難しい、段差がすぐ見えやすい。)、でも、5、6年経たものでも段差が出るのは大変少ないですね。
透明感がたまりません!!彼も素材を充分寝かせて使用しています。


奇しくもErnieとTonyにはいくつか共通しているところがありますので、それを書き記してみます。


? 仕上げ剤は2人ともカーコートを使っていますが、仕上げ剤を塗布する前の下地処理でも2人ともまったく同じような事を実施しています。(同じ目的だと思いますが、何をしているかは書けません、ごめんなさい!)
? Shopの掃除が行き届いていて、尚且つスプレーブースは作業場とは別に独立して設置してある。ほとんどのキューメーカーは作業場とスプレーブースが一緒です。


他のメーカーのキューは、全てとは言いませんが、GinacueやBlack Boarに比べて塗りが厚かったり、透明感がなかったり…ですね。



それからBobの競争相手には相応しくないかもしれませんが、私の眼で見る限りずば抜けて仕上げが綺麗なのはDave Barenbruggeですね。
キューの仕上がった状態では布ケースに入れるのかプラスチックケースか…何に入れても傷がつくのでは、と思うほど正直ためらいます。
昔、武士が日本刀の手入れをする時、半紙(懐紙)を口にはさんで、というのを思い出しますが、息がかかるのも留意したくなるほど、Daveのキューはキ・レ・イ!です。
工程が他のキューメーカーとは違うというのも、仕上がったばかりの実物を目にするとナルホド…と理解できます。
メタルも木材も関係ないし、小さいけれどシルバーをリングに入れたこともありますからね。
今年の秋に出来上がる新作を1本Bobに送ってみようかな、Bobは何て言うでしょう!?



キューを見る時、みなさんはどういう風に見ますか?
目で見るに決まってるって!それはそうだけど…。
デザインを見るにはキューを置いて上から見ますね。
仕上げの見方はやはり透明感が一つの重要な要素です。
下地の処理の良し悪しは光の方に向かって光をキューのボディーに反射させて見ます。
歪んでなく、エッジがカキッとなっているほど良い仕事です。


カスタムキューの仕上げに用いられる塗料は、車や航空機の仕上げと同じものとよく表現されますが、半分は当たっていますが少し不足しています。
塗料の発展の歴史は、実は車や飛行機よりもっと古くから人間の生活に関わっていたもの、そう、船舶・ボートの塗装からだよ、と言われ、私も驚いてしまいました。
Pool cueの塗装には、ボートや船舶からのものが大変多く用いられているのだそうです。
木工品の中でメタル(金、銀、ステンレスなど)などと接合しながら、尚且つ1/1000インチ(1インチ=2.54センチ)単位で精度を要求されるのはPool cueぐらいのものだ、とはDaveの言葉ですが、現実にキューメーカーのShopにいると、本当に細かい数字がたくさん出てきてあきれてしまいます。
先日DaveのShopを訪れた時にDaveの飾りリングをカットさせてもらいましたが、厚さ15/1000インチできっちりカットしなければならず、カットするスピード、回転スピード、刃を入れるタイミング…、最初の10個ぐらいは全部使い物になりませんでした。熱を持たせてもダメで、木材が反ってしまうのです。


あ、それから話を元に戻しますが、木工品の塗りという点に関しますと、15、16世紀のオイルフィニッシュなどもあるじゃないか、ということを言われる方もおいでかと思いますが、それはあくまでも昔の家具や楽器などに用いられたもので、現代のPool cueには用いられていませんので書きませんでした。



2009年4月1日 Lucky