ヨモヤマバナシ

【 Ginacue おそるべし!! 】

掲載日 2009-02-10

イヤ、本当に驚いていた、というか、あきれてしまった。
Ernie Gutierrez、1941年コロンビア生まれというから、現在67歳の御仁。
なんと、ひ孫までいるそう…。
その彼が朝10時前からシャフトを削り始めて…、もう時計は14時を廻っている。
その間一度も休むことなく4台のマシンの間をあちこち動き回っている。


こちらが日本人で、Shopの中で写真を撮っている、なんてのは眼中にもなく、愛想も言わない。
午前中2度ほど質問しようと思ったけれど、Ernieは2度とも口元に人差し指を立てて首を横に振り、すぐに作業に戻ってしまった。
手元が開けばこっちを向くのかなと思ったけれど…期待するだけ無駄、集中している。

断っておくが、Ernieは他人をShopに入れたままマシンを動かすことはないそうだし、写真を自由に撮らせることもまずない。
ここまで無視(?)されたということは身内扱いをされているということで、喜ぶべきことなのだろうと思えた。

途中3度ほど電話が鳴ったが、その時だけ手を止めて二言三言…15〜20秒で切り、また黙々とマシンに向かった。
彼がマシンなのではなかろうか…と一瞬感じてしまう程である。
作業に集中している時は、中断されることをとても嫌う。
笑いや会話など、Ginacueには誰も求めない。
ただ、品質、美しさ、プレイアビリティーだけなのだと、彼は固く信じているようである。


ようやく手が止まったのが15時半。
一気に70本程を削り上げ、遅い昼食の時間である。
こちらはてっきり昼食抜きなんだと思い込んでいた為、Shop内のテーブルに供されていたチョコやチーズ、フルーツでお腹は程よくなっていたけど…、まぁいいか、軽く食べよう!

車に乗って10分足らずで着いたのがErnieお気に入りのキューバンブレッドのお店。
ドヒャーッ!ランチタイムでもないのにすごい行列である!!そこでミートパイなどを1人2・3個と飲み物を持ってテーブルに座るとErnieは早速ムシャムシャ…、5分座ったか座らないかのうちにもう食事終了。
とにかく動きが速く、無駄がない。以前に比べるとよく話をするし、笑顔も増えた。でも時間を惜しんでいるのがよくわかる。


たった1人で約40台ものマシンを操り、年間70本(本人談)を作り上げるというErnie。
今年はこれから作り始める約30本を作りながら、今オーダーがきているハイエンドを5本…それを年末までに何とか作りあげたいそうである。
ハイエンドの価格は?と聞いたところ、1本1250万円か…もしかしたら2500万円かも…とErnie。もうアイディアはできているけれど、細かい部分が決まっていないそう。5本のうち4本はもう行き先が決まっていて、あとの1本は…「Lucky、買わないか?」と真顔で言われた。「ゲッ!ムリムリ…」こちらは世界のセレブとは所詮縁のないみちのくの庶民である。
でも1本2000万円とすると5本で1億円。1億かぁ…。


そんなことを考えていたらErnieは来年のことを話し始めた。
来年は50周年記念モデルを計画している。デザインはまだだけど、1人で50本作る、と言い切る。
すごいものである。
今年68歳だよ、と言う彼であるが、今でも日曜のバイクツーリングは続けているし、自転車も乗っているそうである。
膝・肘・肩が弱くなってきていて無理がきかない、と言うけれど、節制しているのは間違いない。


パソコンを開いたり明日の準備をして、我々がShopを出たのが19時。今日の夜食はOUTBACKというステーキハウス、終わったのが21時半頃。「明日は何時?」とErnieに聞かれ、朝9時半にホテルに来てくれるという。
明日のErnieはどんな人?愉しみである。


午前9時半、あ!もうErnieの車がある。昨日の疲れも見せずに明るく「Good Morning, Lucky, Mia!」
昨夜はあれから家に帰り、少し休んで全豪OPENを見たそうだ。
ナダルがどうとかフェデラーがとか…無類のテニス好きなのだそうだ。
聞けば睡眠は1日4時間。それ以上だと調子が悪く、逆に疲れてしまうそう。
若い頃からずっとそうで、今まで全然変わらない、と言っている。
自分と同じ種類の人間だ、と思い嬉しかったが、集中力ではレベルが違う。


今日彼の車で行く先は…、実はTADのShop。
車で約1時間程の距離であるが、Ernieは今まで1度も訪問したことがないそうである。
車でたった1時間なのに…?と驚いたが、彼は真顔なのでどうやらジョークではないようだ。
45年の中で初めて行くきっかけが、私が頼んだからか…と思い、
「わざわざすまないね。」と言ったら
「いつもShopだからたまには外も良いもんだ、気分転換!」。
優しい言葉である。
「今日午後からは?仕事するの?」
「帰る時間によるね!」
R405を南に下り、渋滞などにあいながらSan Diego FWYを下り、Stantonに着いたのが11時。
Shopに入ってみたらTadさんが「いやー、よく来たネ!」と迎えてくれた。
Fredも手を止め、円卓で皆の話が弾む。
昔話も去ることながら、機械の話になるとTadさんもErnieも夢中である。
スピンドルがどうたら、40000回転では速すぎるとか…。
聞けばTadさんはFredと10年程前にGina cueを訪れたことがあるそう。
たった1度だけだけど…と2人共。


Tadさんが「Ernie、年いくつ?」
「今年で68歳。Tadは?」
「もう80歳だよ。去年Cancerの手術で入院し、その放射線治療のおかげですっかり足が弱くなってしまった…。今年の秋に日本に行けるかなぁ…」とTadさん。
そんな話をしながらこちらに向かって日本語で
「彼は不景気なんて関係なく儲かってるよ。やっぱりインレイキューのメーカーでは一番だろうね。」なんて話もしてくれた。
機械の時の話しっぷりといい、木材の仕入れ・ストック本数などの時といい、まだまだTadさんも現役である。
自分は2大巨匠の間でただただ話を聞いているだけであった。

12時になり、近所のカレー屋さんへ。まるでココイチのようなカレー屋さんだけど、結構混んでいて値段も高い。
残念ながらErnieの口には合わなかったようで2、3口食べたきりだったが、こっちは久しぶりの日本食!ペロリとたいらげご馳走様!またShopへ戻って軽く話をした後、TADSHOP Tourをした。
ErnieはFredに色々アドバイスをしていたけど、Fredは理解できたのかなぁ、そんな心を残したままNorth HollywoodのGinacueのShopへ戻る。


今日はErnieの奥さんであるLuzの??歳のバースデーだそうで、VALLEYにあるMorton’sというステーキ&シーフードへ。
お店の前にはフェラーリやらベンツやらがズラッと並んでいる。
ここにつれてきてもらったのは今日でたしか3回目。前回はLambステーキだったけど今回もそれでいこう。
このお店は味はもちろん、サービスが素晴らしい。
オードブルやらサラダやら…食事が終わってHotelに戻るともう23時。
Ernieは車の運転もしているから大変だな、としみじみ思った。
今日はおなかもHappyで熟睡!


さぁ、今日は土曜日。どんなErnieが見られるか?
9時半より少し早く下に行ったらちょうどErnieの車が入ってきた。時間厳守というか、5〜10分早い。
Shopでは昨夕手をかけた塗りの磨きが待っていた。
だが1度バフアップをして見たら白く点のように下地に空気が入っている。
Ernieは首を捻って…もう1度やり直すという。
削り取って、埋めて、ヤスリで磨いて…、また噴きつけて…。
その間スプレーブースに行く度に自分の手を洗い、エアガンで洋服をはらう。
埃がつかないよう1つ1つの作業を間違いなく行ってから、噴きつけ始めた。
この他にも企業秘密の完璧なる作業裏があった。改めてErnieのすごさを垣間見た気がする。


彼は1962年、たった1つの旋盤からキュー作りを始めたそうである。
それが必要に迫られて次から次とマシンをデザインして自分の手で作り上げた。
10年ちょっとの間にそのマシンは30台にもなった、と言っていた。
「最初に作ったキューはどうしているか知っているかい?」とErnie。
「誰か持っているの?」
「あるPool Barでそのキューを見つけて買い戻した。そして機械で真っ二つ!まだ持っているよその部分は。」(エッ!!)
「Shame!!」と吐き捨てるように言ったErnie。


Ernieは1963年に重いキューにはコアすることを思いついた。
『アイボリーハンドルでは重くてプレイできないからね。自分は今までいろいろなものを作ってきたけど、ヒビが入ったり分解してしまった物は1本もない。45年の歴史がそれを証明している。マーケットで今作られているアイボリーハンドルは何年持つか楽しみだね。多分5年か10年で割れたりする物が大半じゃないかな。自分が考えている工法はただ1つ。それ以外では数年でキューは駄目になるのではないかと思う。Bill Stroudがキューにコアすることを開発した、と皆に言っているし、皆もそう信じているけど、彼がキュー作りを始める前から当の昔にそんな事は自分はやっていた、63年だよ。彼は80年後半だろ!でも彼が先んじていたこともあるね。それはコンピューターのキュー作りでの応用だよ。その点は彼が一番早かった。自分はコンピューターなど何もわからず、コンピューターShopに行っても理解できなかった。コロラドの彼のShopを訪れて参考にしたよ。』
Ernieは1つ1つをきちんと把握して話をする。

Tadさんのことはとても評価している。
その理由はTadさんだけが『デザインを真似していいか?』と自分に聞いてきた、ということであった。
60年代に2度ほどそんな事を聞かれ、俺はOKだよ、と言ったんだ。
今まで多くのキューメーカーが自分の考えたデザインをコピーしてきたけど、了解をとったのはTadだけで、自分はそれを評価しているんだ。
聞けば聞くほど『歴史だなぁ』と感じてしまう。

そんな話をして、またスプレーブースへ…。今度は上手にできたようで、ペーパーをかけて、バフアップを始めた。
どんな単純作業も簡単なことも1人で全部行うErnie。
どのマシンを見ても怪我しないように使いやすく設計してあるし、使い勝手も良さそう。
マシン同士のアレンジメントもスペース効率も良い。
ふと現在のメーカーでこのShopを超越するShopはあるのかな、と思い巡らしてみた。
A、B、S?T?…。どれも一長一短だけど、Ginacueより優れているか?というと首を捻ってしまう。
キューメーカーを集めて投票しても、きっとGinacueがNo,1になると思う。


夕方になり、もう写真を撮る所もないな、と隅に置いてあるバイクの方へ…。
あれ?こんな所にメープルフォアアームの山がある…。
10本程手に取ってみると、中に2本良いのがあるね、Ernie!と声を出そうとしたら彼が、「それはウチでは使わないメープル。自分が使いたい物はこれ以上の物ばかりで、これはちょっと…。」と簡単に教えてくれた。
どう見てもどこのメーカーでも欲しくなるようなメープルの山だった。
そしてその後Shopのマシンの下を次々とオープンしてくれたErnie。
エボニーはどれも真っ黒!メープルだって濃い茶色のフィギュアがあって…思わず見とれてしまうほど。
こんなエボニーやメープルを大体500本は持っていると豪語する。
シャフト材に至っては数千本持っているそうだ。最終サイズまで削って最低5年は寝かすそうで、最終サイズまで削った中で現実に使用するのは半分ほどだそうだ。
木目が駄目だったり、節が出てきたり…。素材にはとてもウルサイのが目で見るだけで理解できた。スゴイ!!

「今日は早く帰ってよく眠り、明日AM7:00にHotelに行くから。」とErnie。
「いや、タクシーで空港に行くよ。」と私。
結局「大丈夫、7時に行くから。」と言ってくれた。

LAXまで渋滞の中迎えに来てくれて、3日間振り回し、朝早くにまたLAXまで送ってくれる。
今まで無愛想だな、と思っていたけど、Ernieは心から優しくて思いやりがあった。仕事中は一心不乱、長い経験と失敗から学んだのだろうけど…同じミスをすることを極端に嫌う性格なのだろう。
一緒にいて随所に彼の知識と経験の豊かさを垣間見ることができた。


Ernie Gutierrez、67歳。
不世出の天才であり、今なお現役、今なおNo,1。


By Lucky