ヨモヤマバナシ

【 コストパフォーマンス 】

掲載日 2008-11-19

前回は個体数が激減している昔ながらのキューメーカーの現状を書きましたが、「まるで絶滅種ですねぇ。」と読者の方から言われてしまいました(笑)
どこかの条約で保護出来れば良いのに…。
さて今回は『キューで評判の良いものは?』というテーマ。


キューで評判の高い良い物は、と聞けば、AdamかMezz。イヤイヤ、何千本も年産しているキューではなくて1人かせいぜい2人までで製作されているキュー、生産本数が年産100本位までのもので、ということです。


私の感覚では、日本ではTADかなという気がします。1963年創業でかれこれ45年。馬の世界では無事これ名馬といいますが、まさに名人の域。休まず、たゆまず、名作を生み続けています。創業以来の総数は、もうざっと見て4000本近く、少なく見てもその半数以上がここ日本にあります。
いかに長い年月を掛けているとはいえ、これだけのキューを買い求める人がいるという意味で私はTADが一番人気・評判が良いと判断しました。


TADキューは台湾やアメリカにもあると思いますが、それはごく最近の動きで、35年ほど前にはすでに奥村さんたちも使っていました。普及には日本のプロの存在も大きかったことでしょう。TADというブランド名の由来は“TADACHI KOHARA(Tad氏の本名)”から来ています。TADACHIはタダチ、すなわち『直』という字ですが、皆、日本人でさえも“タダシ”と読み間違えるとプンプンしていました。
TADさんにショップの歴史を尋ねた時によく言われたことは『キュー作りの大変さより、キューを売ることの大変さだよね。』ということでした。
私の住む仙台にも2回ほど立ち寄ってくれて、温泉にもお連れしたのも良い思い出ですね。


TADの良いところというと何を思い浮かべますか?
質問を変えると、何故それほど売れるのでしょうか?と言うことですね。
私はデザインだと思います。一目見てTADと分かりますからね。
よく撞き味うんぬんを言う方もいらっしゃいますが、長年TADを見てきて感じることは、昔のキューは1本1本違います。軟らかい柳のようなものから金属のようなものまで、10本買ったら10本とも違いました。


また『TADらしい撞き味の』『TADのしなりを』『ひねりが…』と言われても、撞き方で全然違います。手玉をキュー先で捕らえて、しなって、どんな風にリリースして…そういう一連の複雑な動きを瞬時にして行っているのがビリヤードです。硬い打感で、球離れの早いタップを使って、どんなShotもワンパターンでこなすキューとは違うのです。もし古いTADをお持ちの方は、是非撞き込んで、使いこなしてもらいたいですね。


長いTADの歴史の中で構造が大きく変化したときが何度かありますが、そのうちの1つとして92.3年頃が上げられます。前にも述べましたが、バットに芯材を使うようになり、94年ごろにはもう大体現行のシャフトテーパーと同じで80年代のものと比べるとバットもしっかりしてきています。
フォアアームに芯材が用いられたことと、コンピューター制御でテーパーのバラつきがなくなったことも大きな理由ですね。
キュー製作スタイルも9ボールゲームに適した形で進化したのでしょう。現行のTADキューは本当に一定の撞き味の幅に入る、期待を裏切らないキューです。ナニ?昔と違って面白味に欠けるって??この点に関しては何故こうなったか、何故昔は大変なバラツキがあったのかをいずれテーマとして取り上げます。


次に評判の高いキューというと、現行モデルのGina cueですね。
どんなモデルであれ、持っているだけで一種のステイタスを得られます。もしお店でGina cueでプレイしていれば、必ず周囲の人がチラチラ見ています。『あっGinaだぁ!』
Gina cueは1961年創業、73年まで装飾性の高いキューを作っていましたが、一時中断、その後88年に再開しています。73年までの作品は大変少なく希少性も高いのですが、撞き味としてはショートコンタクトのキューで、金属音がします。


デザインは大変良いものが多いのですが、当時のものはシャフトが曲がりやすく、ピンとブラスの相性が悪い為、現行のものとは一線を画しています。
当時、ピンとブラスの相性はさほど問題にもされていなかったのか、80年代半ばの作品まではTADも同じような出来でした。キューを立ててシャフトを挿入するとシャフトが大きく動く、いわゆる遊びがあるのです。ただ、テーパーの違いでTADはスピンが残り、Ginaは硬く感じる、カスタムキューは面白いものです。


これが1988年の再登場以来、キューはガラリと変わります。最初のラスプーチンは黒檀にメープルの芯材を使わなかったために21オンス以上ありました。又、まだ反りや曲がりなどの問題も解消されてはいませんでした。
Gina cueのすごいところはここからで、フォアアームに芯材を入れ、味をしめるとハンドルやスリーブにまで発展させました。


88年に作り始めてからいくつもの新しい機械が必要になったのは、73年までの作り方とは激変したからです。工程が増えたことに関しての判断は時間短縮で一度に大量のストックを作り、保管するというやり方です。先角は1000個前後を一日で作るそうで、シャフトもそうです。まるで手品師のように簡単そうに仕上げていきます。マシンの総数は約40台。ほとんど全てがErnie自身で組み上げた物で、修理も全て一人で行っています。金属のパーツも全て自分で切って交換します。一度ショップで見たのは、ずっと一台の大きな旋盤の修理をしていました。


丸2日がかりで修理を終えましたが、ずっと不機嫌で近寄りがたかった…。でもシャワー後の夕食はいつもの愉快なErnieでした。92年を過ぎると同じパターンのキューだけではなく、少し変化のある物もつくる余裕が出来ていました。生来同じことだけやることは出来ない性格で、どんどん新しいデザインやパーツを組み合わせることを始めます。


助手を入れてみっちり無駄なく作り上げたこの時代の最盛期は、きっと年産150本ぐらいだったと思います。
今、完全に一人で作りげるのは50〜60本。オーダーは知っている人からしか取らず、ずっとスケジュールは埋まっています。
あと3年で50thアニバーサリーですが、この調子だと充分作れると思います。多分5本程度の高価なものを作る。そんな気がしますね、今までのように50本とはいかないでしょう。


私としてもお祝いはしたいな、何が良いでしょうか。
現行のGina cueは使用されている素材の素晴らしさ、投資された機械と出来上がりのデザイン・プレイアビリティ、どれを取ってもコストパフォーマンスとしては最高です。
買うなら今ですね。


George Balabushka、Gus Szamboti、その次に名前が残るのは間違いなくErnie Gutierrezですからね。
又TADよりもセカンドマーケットでの価格が高いのはもう1つの買いの理由。なにせGina cueのマーケットは世界ですから。
TAD、Gina…この後にコストパフォーマンスで推せるキューはというと、難しいところですが、私の名に懸けてずばりSamsaraはどうでしょうか。


Samsaraは創業が1991年とまだ20年足らずですが、2000年秋に現在のNorth Dacotaに移ってからは一直線に最新鋭化を図ってきました。
使用しているコンピューター制御の機械も今では13、4台。複雑な組み木の部分は全て手作業で行い、省力化出来るところは徹底して省力化している、超優良キューメーカーです。


年産本数は100本ぐらいですが、このカスタムキューの部分はDave Doucetteが1人で朝から夜まで作っています。その他には、アメリカ国内に供給される314シャフトの製作を一手に引き受けています。4・5人ほどのパートタイムがそのシャフトやパーツ作りをして、他のキューメーカーたちにも供給している、高精度のキューメーカーです。


Daveの作り出すキューは安いものでは1000ドルちょっと。カスタムキューにしては信じられないほどの価格です。ナニ?材料が木ばかりだから?それでも高いって?
そう言う人も巷には多いのでしょうが、その道の一流の人間が手で作れる作品は素材の原価で決めてはかわいそう。
書や絵画の原材料っていくらぐらいします??焼き物は土ですよ。ゴルフクラブだって自動車だって材料代は大変安いはずです。物の値段には材料費・広告費・人件費がかさむのは確かですが、一流のものには全て原価は関係ありません。
その価値を認める人だけが手に出来るのだと思います。


Samsara cueはカスタムキューの良さを上手に残しながら、機械化と両立しているメーカーでデザインも超ユニーク。木の優しい温もり、木目の美しさ、そして1本1本微妙に違うカスタムキューの面白みを充分に持っているキューです。顧客層も幅広く2500万円のチェスセットや1本数百万円もするキューまで全て売り切っている実力派です。
生産本数が増えることはこれからも考えられず、少しずつ値上がりしていくのは間違いないですね。


ストレートですと日本円で12・3万や16・7万で買うことが出来ます。この価格はまさにプロダクトの価格です。TADやGinaには歴史やブランド力ではまだ少し劣るかもしれませんが、手にとり所有する満足感を考えると大変コストパフォーマンスが高いです。本当に驚くほど綺麗な木を使っていますから…。杢目などの細かい部分の美しさが、HPの写真でもうまく表現出来れば言うことなしですね。


本来なら3つのブランドでOKと思っていましたが、気持ちよく終われません。
食欲の秋でおなかが出てきたといってウエストを手でさすって納得!サウスウエストについて書いていない。サウスウエストファンも多いので私なりの評価を一言。
ジェリーが夢を持って理想を追い求めたサウスウエストのキューは撞き味と独特なデザインで評価され、今でも大変高いコストパフォーマンスだと思います。


それに比べて、現行のものは私の眼から見れば少し違ったものになりつつあるのではないでしょうか。故意にバックオーダーを増やして、待ち時間が長くなり価格を吊り上げているような気がしてなりません。
何故ならば、アメリカの新興ディーラーまでサウスウエストは手にしているのに、一般のお客さんはずっと待たされっぱなしです。ジェリーの気持ちはどこへいったのでしょうか??